遺品整理の委任状、書き方と文例|兄弟が来られないときの任せ方

遠方の実家の片付けはどうする?帰省できないときの進め方

実家の片付けを進めたいが、兄弟が遠方で来られない。あるいは仕事の都合がつかない。「こちらで進めていいか」と聞いたら「任せる」と返ってきた。それだけで進めて大丈夫だろうか。

「任せる」の一言では、何をどこまで任せたのかが残りません。特に業者と契約する権限が含まれるかどうかで、後の責任が変わります。委任状は、任せる範囲を区切るための書面です。全部を任せるためのものではありません。

この記事では、委任状に書く7つの項目と、そのまま使える文例をご案内します。同意書との違いと、白紙委任にしないための書き方もあわせて説明します。

なお本記事は、親が亡くなった後、相続人が複数いるご家庭で家財を整理する場面を想定しています。遺言の有無、遺産分割の結果、相続放棄などにより、確認すべき相手は変わります。兄弟姉妹だけでなく、存命の配偶者や代襲相続人も対象になる場合があります。

相続放棄・限定承認をお考えの方は、署名や委任の前にお読みください。

相続財産を処分すると、相続を承認したものとみなされる場合があります(民法921条1号)。保存行為などの例外はありますが、「古い物だから」「家族全員が同意したから」という理由だけで安全とは判断できません。処分を伴う権限を人に委ねる行為も含め、先にご確認ください。

相続放棄の申述期間は、原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月です。家庭裁判所による期間伸長の制度もあります。裁判所の相続放棄の案内もご確認ください。

根拠:民法915条・921条(e-Gov法令検索)

AUTHOR

深沢 文敏(ふかさわ ふみとし)

クロフネ行政書士事務所 代表。行政書士(埼玉県行政書士会)・宅地建物取引士(埼玉県知事登録)。埼玉県さいたま市大宮を拠点に、首都圏にお住まいで地方に実家があるご家族の「実家と親のこと」の交通整理を行っています。ご家族の話し合いに中立の立場で同席し、必要な専門家へおつなぎするのが役割です。


同意書と委任状は、役割が違います

混同されやすいところですが、この2つは別の書面です。両方必要な場面もあれば、片方で足りる場面もあります。

書面役割記載例
同意書何を、どう扱うことに同意したかを残す別紙01の食器は廃棄に同意。02のアルバムは保留
委任状誰に、どこまでを任せるかを残す姉に日程調整・立会い・写真報告を任せる。業者契約は含めない

通常の家財整理について、相続人全員が必ず現地に立ち会うという決まりはありません。ただし、その場にいない人の意向や権限を省略してよいわけではありません。

鍵を持っている、実家の近くに住んでいる、長男である。こうした事情だけでは、家財のすべてを処分できる代理権限は生じません。処分への同意と、担当者への委任は、分けて記録します。

根拠:民法99条・643条・898条(e-Gov法令検索)


来られない人にも、できることがあります

委任状の話に入る前に、一点だけ。「行けないから任せる」で終わらせると、近くに住む人だけに負担が集中します。その状態が続くと、後になって不満が噴き出します。

現地に行けなくても、自宅からできる分担があります。

  • 家族それぞれの希望を聞き取り、残したい物・確認してほしい場所をまとめる
  • 送られてきた写真と一覧を整理し、未確認の品と保留の品が分かる状態にする
  • 業者の候補に、立会いなしの対応・現地確認・見積り・写真報告について問い合わせる
  • 見積書や契約内容を家族全員に共有する窓口を担当する
  • 費用の支払者、各自の負担額、追加費用が出たときの確認方法を整理する

来られない理由を責め合うより、引き受けられる作業を具体的に決めるほうが早いです。委任状は、その分担を書面にしたものだとお考えください。


委任状に書く7つの項目

項目記載する内容
① 委任者・受任者任せる人と任される人の氏名・住所・連絡先。委任者は続柄も記載
② 故人と対象の実家故人の氏名・死亡日、実家の所在地。対象となる場所を特定する
③ 対象資料同意書と品目リストの作成日・版番号・写真番号
④ 任せる事務日程調整、立会い、作業指示、記録と報告などを具体的に書く
⑤ 業者との契約含めるか否かを選択。含める場合は業者名・見積書・上限額を記載
⑥ 除外する権限対象外の品の処分、売却・贈与、遺産分割、預金の払戻し、再委任など
⑦ 期限と報告有効期間と、完了後に共有する写真・一覧・領収書

⑤業者との契約を含めるかどうか

ここが最も判断の分かれるところです。

現地の担当者が自分の名義で契約する場合と、他の家族の代理人として契約する場合では、契約の当事者が異なります。委任状があっても、業者への支払義務と、家族の間での最終的な負担が自動的に同じになるわけではありません。

契約の当事者、請求先、立て替える人、各自の負担額は、それぞれ別に確認してください。

上限額の書き方に注意

複数人が委任する場合、各人の委任状に書く「業者契約の総額上限」は、同じ契約全体の上限です。人数分を合算する金額ではありませんし、各人がその全額を負担するという合意でもありません。

業者に契約の形態を確認してから記入してください。


そのまま使える文例

家財の整理に範囲を限定しています。遺産分割協議や不動産売却の代理まで含む「相続手続一切」の委任状ではありません。

遺品整理委任状

私は、下記受任者に対し、下記実家の家財整理について、次の範囲に限り事務を委任し、契約代理を選択した場合はその範囲の代理権を授与します。

被相続人[氏名・死亡日]/実家の所在地[所在地]
受任者[住所・氏名・連絡先]
対象資料[同意書・一覧の作成日、版番号、写真番号]

1 前提
別紙の処分同意書と品目リストにおいて、対象品について必要な権利者の同意が確認できた範囲だけを実施します。未回答・保留・一覧にない品は処分しません。

2 委任する事務
日程調整、作業の立会い、別紙の範囲内での作業指示、作業前後の記録、資料および領収書等の受領と報告。

3 業者との契約代理
[ ]含めない / [ ]下記の業者・見積書に限り含める
業者名[   ] 見積書の日付・番号[   ] 業者契約の総額上限[   ]円(税込)
いずれも選択がない場合は、契約代理を含めないものとします。追加・変更契約、支払いの代行、借入れは含めません。

4 対象外の権限
価値ある品・価値不明の品・重要書類・祭祀財産・他人の所有物の処分、売却・贈与、遺産分割、預貯金の払戻し、不動産の処分、権利の放棄、紛争の和解、代理権の再委任は含めません。

5 変更と報告
新たな品、追加費用、家族間の意見の不一致が生じたときは、該当する作業を止めて事前に確認します。完了後は写真・作業一覧・受領資料を速やかに共有します。本書により、家族間の費用負担の割合は定めません。

有効期間 [開始日]から[終了日]まで(期間内でも事務の完了時に終了)

作成日 令和  年  月  日

委任者 住所・氏名(本人署名)・続柄・連絡先   

受任者の引受確認 日付・署名   

印刷して使う際は、第3項の選択肢のうち片方を消し、権限を与えない空欄には斜線を入れてください。後から別の人が範囲を書き足せる白紙の委任状にはしないこと。これが一番大切です。



「相続人代表者」を決めれば、一人で手続きできますか

「代表者を決めて、その人にまとめてもらおう」。話し合いでよく出る案です。負担が分散せず一人に集中するという問題はありますが、進め方としては現実的です。

ただし、「相続人代表者」という呼び名自体に、他の相続人を代理する法的な効力はありません。ここを誤解したまま進めると、途中で止まります。

2つの「代表者」が混ざっています

呼び名中身
固定資産税の
相続人代表者
市区町村へ届け出るもので、納税通知書の送付先を一本化するための制度です。その人が単独で不動産を処分できるようになるわけではありません
金融機関の
代表相続人
各金融機関が定める取扱いです。必要書類も要件も機関ごとに違いますので、窓口で確認してください

どちらも「その場面での窓口」を決めるものであり、家財整理まで含めた包括的な代理権を与えるものではありません。

一人に集約するなら、範囲を区切る

現実的な進め方は、「代表者を決める」ではなく「何を任せるかを決める」です。同じ一人に集約するにしても、書面の書き方が変わります。

避けたい書き方
「相続に関する一切の手続きを委任します」

望ましい書き方
「実家(所在地)の家財整理について、日程調整・作業立会い・別紙の範囲内での作業指示・記録と報告を委任します。業者との契約代理は含めません」

前者は、後から別の人が範囲を書き足せる白紙委任に近い状態です。受け取った側も、どこまでやっていいのか判断できません。

「信頼しているから一切お任せで」という気持ちは自然ですが、範囲を区切ることは、任される側を守ることでもあります。あとで「そこまで頼んでいない」と言われないために、書面で線を引いておいてください。

家財整理と、それ以外は分けて考える

本記事の文例は、家財整理に範囲を限定した委任状です。次のものは含めていません。

  • 遺産分割 誰がどの財産を取得するかは、相続人全員の協議で決めます
  • 預貯金の払戻し 金融機関ごとの手続きと必要書類があります
  • 不動産の名義変更 相続登記は司法書士の取扱業務です
  • 相続税の申告 税理士の取扱業務です

これらを1枚の委任状でまとめて済ませようとすると、提出先ごとに「この書式では受け付けられない」と言われます。結局は場面ごとに作り直すことになるので、最初から分けておくほうが早く進みます。

根拠:民法99条・104条(代理)、643条(委任)(e-Gov法令検索)

委任状があっても進めない場面

委任状は万能ではありません。次の場合は、書面があっても止まります。

  • 必要な同意がそろっていない品がある。委任状を出した人以外の権利まで扱うことはできません
  • 家族の誰かが処分に反対している。多数決や現地担当者の判断で押し切らず、その品を保留します
  • 相続人や所有者が確定しない、遺言との関係が分からない。権利関係を先に確認します
  • 委任する人が内容を理解して意思表示できるか分からない、未成年者との利益相反がある
  • 借金の有無が不明で、相続放棄の検討が残っている

「明渡しの期限が近い」という事情だけでは、権限の問題も相続放棄への影響も解決しません。賃貸だった実家で期限が迫っている場合は、貸主に事情を伝え、保管や期限の調整ができないか確認してください。交渉の代理が必要であれば、弁護士へご相談ください。


当日と完了後に残す記録

現地の担当者は、一覧と作業箇所を照合してから始めます。除外する品は別の場所に置き、業者にも範囲を伝えます。想定外の品や費用が出たら、その作業を止めて連絡してください。

  • 作業の前後の写真と撮影日
  • 実際に処分した品目番号と処分方法
  • 残した物、新たに見つかった物、その保管場所
  • 作業に来た人、業者名、作業日
  • 見積書、契約書、請求書、領収書

報告は受任者の基本的な役割です(民法645条)。任せた家族が確認できる形で、経過と結果を共有してください。

根拠:民法644条・645条(e-Gov法令検索)


よくあるご質問

来られないだけでも委任状は必要ですか

来られないことだけを理由に、一律で必要とはいえません。現地の担当者が何をするかによります。業者との契約を代理する場合や、権限をはっきりさせておきたい場合は、具体的な委任状を作成してください。提出先がある場合は、その要件も確認します。

「全部任せる」というLINEだけで進められますか

合意の記録にはなり得ますが、対象の品・費用・契約権限が曖昧なままになります。その文言だけで進めず、写真・一覧・具体的な委任の範囲を送り直して確認してください。

相続人代表者を決めれば全員分の署名を省けますか

代表者という呼び名だけでは、他の相続人を代理する権限は生じません。対象の品についての同意と、必要な方からの具体的な委任を、それぞれ確認してください。

署名した紙を写真で送ってもらえますか

内容の確認には使えますが、原本の提出が必要かどうかは提出先によって異なります。署名した全ページと添付資料を保存し、原本の保管や郵送の方法も決めておいてください。

費用の分担もこの委任状で決まりますか

決まりません。契約の総額上限と、家族それぞれが負担する金額は別のものです。契約の名義、請求先、立て替え、精算の方法を確認し、別に書面で残してください。

同意書も必要ですか

委任状の前提として、何を処分してよいかの同意が必要です。書き方は遺品処分の同意書、書き方と文例をご覧ください。

実家のこと、誰が決めますか。

実家の話し合いに、中立の一人を。

誰に確認するのか。何を残すのか。どこまで任せるのか。決めるのはご家族です。順番を整え、決まったことを書面にし、必要な専門家におつなぎするのが私たちの役割です。

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作成:クロフネ行政書士事務所/情報確認日:2026年9月14日。本記事は一般的な情報提供であり、個別の事案に対する法的助言ではありません。当事務所は行政書士事務所です。不動産の名義変更(相続登記)は司法書士相続税・譲渡所得税の申告は税理士相続人間で争いが生じている事案は弁護士の取扱業務となります。必要に応じて各専門家をご紹介いたします。

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深沢文敏・家族資産コンシェルジュ・行政書士・宅地建物取引士

AUTHOR

深沢 文敏

家族資産コンシェルジュ|行政書士(登録番号 第14130403号)・宅地建物取引士
クロフネ行政書士事務所 代表/さいたま市大宮区

📰 メディア掲載 50媒体超 📚 著書 3冊 🏠 郡山居住・不動産所有経験あり

一部上場企業を退職後、行政書士として独立。法務書類の作成権限を持つ行政書士と、不動産売買を媒介できる宅地建物取引士の両資格を保有。郡山市(開成・鶴見坦エリア)に居住し、マンションを所有していた経験から、地方都市の不動産が抱える課題を現場感覚で把握している。日本経済新聞・朝日新聞・NewsPicks・TBS NEWS DIGほか50媒体超に掲載。

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