実家をどうするか、兄弟で決まらないとき

実家をどうするか。
その話を始めてから、もう何か月も経っている方へ。
兄弟の仲が悪いわけではない。誰も無責任なわけでもない。それでも決まらない。この状態には、はっきりした理由があります。
意見が対立しているのではなく、判断材料がバラバラなまま話し合っているからです。
実家の近くに住む人は、庭の草の伸び方も、屋根の傷みも、近所の目も知っています。遠方の兄弟が思い浮かべているのは、最後に帰省したときの実家です。同じ「実家」という言葉を使いながら、見ているものが違う。
この記事では、売る・貸す・残すの3択を、感情ではなく材料で並べ直す手順をご案内します。
この記事でわかること
- 決めないまま放置すると、何が起きるのか(税・保険・登記)
- 売る・貸す・残す、それぞれの判断材料
- 話し合いが動き出す順番(結論から始めないこと)
- 第三者を入れるべきタイミングと、入れてはいけない相手
AUTHOR
深沢 文敏(ふかさわ ふみとし)
クロフネ行政書士事務所 代表。行政書士(埼玉県行政書士会)・宅地建物取引士(埼玉県知事登録)。埼玉県さいたま市大宮を拠点に、首都圏にお住まいで地方に実家があるご家族の「実家と親のこと」の交通整理を行っています。ご家族の話し合いに中立の立場で同席し、必要な専門家へおつなぎするのが役割です。
「決めない」は、実は選択肢ではありません
先延ばしにしても現状維持にはならず、静かに不利になっていきます。主なものが3つあります。
1. 相続登記には期限があります
2024年4月1日から、相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内の相続登記が義務になりました。正当な理由なく怠った場合、10万円以下の過料の対象となります。
この義務は、施行前に発生した相続にも適用されます。「親が亡くなったのは何年も前だから関係ない」とはなりません。
2. 固定資産税が上がる可能性があります
住宅が建っている土地には、固定資産税を軽減する住宅用地特例があります。ただし、管理が行き届かない状態が続き、自治体から「特定空家」または「管理不全空家」として勧告を受けると、この特例が外れます。
軽減が外れると、土地の固定資産税は最大で従来の6倍になります。草木の繁茂や窓ガラスの破損など、放置の積み重ねが引き金になります。
3. 火災保険が効かないことがあります
誰も住まなくなった建物は、保険の区分が変わる場合があります。名義も住居としての実態も変わったまま放置していると、いざというときに補償を受けられないおそれがあります。空き家は放火の標的にもなりやすく、ここは早めの確認をおすすめします。
決まらない期間そのものにコストが発生しています。
固定資産税、火災保険、光熱費の基本料金、草刈りや見回りの交通費。これを何年続けるのかという視点が、話し合いの出発点になります。
決まらない本当の理由
ご相談を伺っていると、「決まらない」と言われる場面のほとんどが、次のどれかです。
その1 見ているものが違う。近くの兄弟は現在の実家を、遠方の兄弟は記憶の中の実家を見ている。
その2 数字がない。売ったらいくらか、貸せるのか、残すと年にいくらかかるのか。誰も知らないまま「もったいない」「面倒」で議論している。
その3 労力が一人に偏っている。近くの誰かだけが動いていて、その人は言い出しにくく、他の人は気づいていない。
その4 切り出す役がいない。誰かが言えば「お前が仕切るのか」になる。だから誰も言わない。
どれも、意見の対立ではありません。反対している人がいるわけではなく、判断できる状態になっていないだけです。
ですから、話し合いを重ねても進みません。必要なのは説得ではなく、全員が同じ材料を見る場をつくることです。
売る・貸す・残す、判断材料を並べる
結論から選ぶのではなく、材料から見ていきます。
| 売る | 貸す | 残す | |
|---|---|---|---|
| 向いている状況 | 全員が遠方。誰も帰る予定がない | 立地に需要がある。建物の状態が比較的よい | 誰かが将来住む具体的な予定がある |
| 最初に調べること | 査定額の幅/譲渡所得税/境界は確定しているか | 周辺の家賃相場/修繕にいくら必要か/管理を誰に頼むか | 年間維持費の合計/見回りを誰がするか |
| 見落とされがち | 家財の処分費用。仏壇・墓の扱いは別問題として残る | 入居者が入らない期間もコストは発生し続ける | 「とりあえず残す」は、決断の先送りになりやすい |
| 兄弟間の論点 | 代金の分け方。全員の同意が必要 | 家賃収入と管理の手間を、どう分担するか | 維持費と労力の負担者が偏らないか |
「残す」を選ぶときの一点だけ
3択のうち、「残す」だけは意味が二つあります。積極的に残すのか、決められないから残っているのか。
後者であれば、期限を決めてください。「3年後の夏にもう一度この話をする」と決めるだけで、残すは選択になります。決めずに残すと、次に話し合うのは誰かが亡くなったときになり、相続人がさらに増えて難しくなります。
話し合いが動き出す順番
順番を変えるだけで進むことがあります。多くのご家族は、いきなり結論から話し始めています。
STEP 1 現状を共有する。実家の写真を全室撮り、全員に送ります。議論の前に、同じものを見る状態をつくります。
STEP 2 年間維持費を1枚に書き出す。固定資産税、火災保険、光熱費、交通費。合計額が出ると、話の温度が変わります。
STEP 3 それぞれの事情を先に言う。結論ではなく事情です。「帰る予定はない」「あの家には思い入れがある」「今は余裕がない」。ここを飛ばすと、後から蒸し返されます。
STEP 4 3択を仮置きして、期限を決める。その場で確定させなくて構いません。「いつまでに決めるか」だけ決めます。
STEP 5 決まったことを書き残す。議事録があるだけで、「そんな話は聞いていない」がなくなります。
STEP 3が要です。事情を先に出しておくと、結論が自分の希望と違っても納得しやすくなります。逆にここを省くと、決まった後で必ず戻ってきます。
第三者を入れるとき、相手を間違えない
家族だけで動かないとき、外の人を入れるのは有効です。ただし、誰を入れるかで結論が変わってしまうことがあります。
| 相手 | その人の立場 | 頼むべきとき |
|---|---|---|
| 不動産会社 | 取引が成立して報酬になる | 売る・貸すが固まった後 |
| 遺品整理業者 | 片付けが仕事 | 処分の方針が決まった後 |
| 弁護士 | 依頼者の代理人になる | 既に対立が生じているとき |
| 親族・親戚 | どちらかに近いことが多い | 中立を保てる場合に限る |
いずれも必要な専門家ですが、どこも「決めるための場を整える」ことは仕事にしていません。入る順番を間違えると、まだ決まっていないのに話が一方向に進みます。
当事務所がお引き受けしているのは、その手前です。現状の整理、費用の洗い出し、話し合いへの同席、決まったことの書面化。そして必要になった段階で、適切な専門家へおつなぎします。
決めるのはご家族です。私たちは判断材料を揃え、話せる状態を整える役に徹します。
よくあるご相談から
Q. 一人だけ「売りたくない」と言って動きません。
理由を聞けているでしょうか。思い出なのか、お金の不安なのか、単に決めたくないのか。理由によって打つ手が全く違います。思い出であれば写真や一部の家財を残すことで解決する場合があり、費用の不安であれば維持費の数字が判断を変えることがあります。説得より先に、理由を聞いてください。
Q. 共有のまま持ち続けても問題ありませんか。
当面は可能ですが、時間とともに難しくなります。共有者の誰かが亡くなればその相続人が加わり、人数が増えます。売却には共有者全員の同意が必要なので、人数が増えるほど合意は遠のきます。共有を続けるなら、管理と費用の分担を書面にしておくことをおすすめします。
Q. 遠方でなかなか集まれません。
全員が集まる必要はありません。オンラインで十分です。むしろ事前に写真と費用の資料を配っておくことのほうが重要で、資料があれば会議は1時間で済みます。当事務所のご相談もオンラインで承っています。
「売る・貸す・残す」整理シート(PDF・A4)を無料でお送りします
年間維持費の合計、3つの選択肢の比較、それぞれの事情。話し合いの材料を並べ直すA4シートです。
メールアドレスをご入力ください。ダウンロードリンクをお送りします。
実家のこと、誰が決めますか。
実家の話し合いに、中立の一人を。
決めるのはご家族です。順番を整え、必要な専門家におつなぎするのが私たちの役割です。まずは現状がどの段階にあるか、3分の質問でご確認ください。
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本記事は一般的な情報提供であり、個別の事案に対する法的助言ではありません。当事務所は行政書士事務所です。不動産の名義変更(相続登記)は司法書士、譲渡所得税・相続税の申告は税理士、売買・賃貸の媒介は宅地建物取引業者、相続人間で争いが生じている事案は弁護士の取扱業務となります。必要に応じて各専門家をご紹介いたします。
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AUTHOR
深沢 文敏
家族資産コンシェルジュ|行政書士(登録番号 第14130403号)・宅地建物取引士
クロフネ行政書士事務所 代表/さいたま市大宮区
一部上場企業を退職後、行政書士として独立。法務書類の作成権限を持つ行政書士と、不動産売買を媒介できる宅地建物取引士の両資格を保有。郡山市(開成・鶴見坦エリア)に居住し、マンションを所有していた経験から、地方都市の不動産が抱える課題を現場感覚で把握している。日本経済新聞・朝日新聞・NewsPicks・TBS NEWS DIGほか50媒体超に掲載。
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