仏壇は誰が引き継ぐ?兄弟での決め方と、遺産分割と別に扱う理由

実家の片付けが進むにつれ、必ず手が止まるものがあります。仏壇です。
家具や食器のように「いる・いらない」で決められない。かといって、誰が引き取るのかも決まらない。そのまま実家に残り続けている、というご相談をよくいただきます。
仏壇や位牌は、預貯金や不動産とは別のルールで承継されます。兄弟で等分に分ける対象ではなく、引き継ぐのは原則として一人です。そして、その一人を決める順序が法律で定められています(民法897条)。長男が自動的に継ぐわけでもありません。
この記事では、決め方の順序と、兄弟での話し合いの進め方、そして決まったことを残す合意書の文例をご案内します。
AUTHOR / 最終更新 2026-09-15
深沢 文敏(ふかさわ ふみとし)
クロフネ行政書士事務所 代表。行政書士(埼玉県行政書士会)・宅地建物取引士(埼玉県知事登録)。埼玉県さいたま市大宮を拠点に、首都圏にお住まいで地方に実家があるご家族の「実家と親のこと」の交通整理を行っています。ご家族の話し合いに中立の立場で同席し、必要な専門家へおつなぎするのが役割です。
仏壇は、そもそも遺産分割の対象ではありません
民法897条は、系譜・祭具・墳墓について、通常の相続とは別の承継ルールを定めています。これらは「祭祀財産」と呼ばれます。
| 区分 | 主なもの | 扱い |
|---|---|---|
| 系譜 | 家系図、過去帳 | 祭祀承継者が一人で承継する。遺産分割の対象にならず、法定相続分で分けることもしない |
| 祭具 | 仏壇、仏具、位牌、神棚 | |
| 墳墓 | 墓石、墓碑、墓地の使用権 |
つまり、「仏壇をどうするか」は兄弟で等分に話し合う問題ではありません。ここを取り違えたまま話し合いを始めると、噛み合わないまま感情だけが消耗します。
「なぜ兄さんだけが決めるのか」という反発も、「なぜ自分だけが押し付けられるのか」という反発も、同じ誤解から生まれます。祭祀財産は、分けないからこそ一人に集まる。その前提を共有するところから始めてください。
承継者の決め方には、順序があります
話し合いで多数決を取るものではありません。民法が定める順序はこうなっています。
第1順位 亡くなった方の指定
遺言のほか、生前の口頭やメモによる指定も含まれ得ます。「仏壇は次男に」と本人が決めていたなら、それが最優先です。
第2順位 その地域・その家の慣習
指定がない場合は慣習によります。ただし、現代では明確な慣習を示せないことのほうが多いのが実情です。
第3順位 家庭裁判所が定める
慣習が明らかでないときは、家庭裁判所が承継者を定めます(民法897条2項)。
実務上は、第2順位と第3順位の間に「家族の話し合い」が入ります。全員が納得して一人に決められるなら、家庭裁判所の手続きは要りません。この記事で扱うのは、その話し合いの部分です。
長男が自動的に継ぐわけではありません
「うちは長男が継ぐものだ」という前提で話が進むことがありますが、法律上、長男に自動的に承継されるという定めはありません。
実際には、実家に近い次女が引き取るほうが自然だった、というご家庭も多くあります。住んでいる場所、仏壇を置ける住居かどうか、菩提寺との距離。決め手になるのは続柄よりも現実的な条件です。
相続人以外でも承継できます
祭祀承継者は、相続人である必要がありません。長年連れ添った内縁の配偶者や、実際にお世話をしてきた親族が承継することもあり得ます。
相続放棄をした人も、祭祀承継者になれます。祭祀財産は相続財産ではないため、相続放棄をしても仏壇や位牌を引き継ぐことができます。借金の問題で放棄を選んだ場合でも、お位牌を手放す必要はありません。
話し合いで詰まるのは、たいていこの3点です
「誰が継ぐか」だけを議題にすると決まりません。分けて考えると進みます。
| 論点 | 確認すること |
|---|---|
| ① 誰が承継者か | 本人の指定はなかったか。住居に仏壇を置けるか。菩提寺との距離。引き受けられる人が名乗るのが現実的 |
| ② 物理的にどうするか | そのまま移すのか、小型のものに買い替えるのか、閉眼供養をして手放すのか。「引き継ぐ=現物を運ぶ」ではありません |
| ③ 費用は誰が出すか | 移動費、閉眼供養のお布施、今後の法要。承継者が一人でも、費用を一人が負担すると決まっているわけではありません |
③が抜けたまま「兄さんが継ぐ」と決めると、あとで必ず戻ってきます。承継の話と費用の話は、同じ場で、別の議題として扱ってください。
承継者に、法要を続ける法的義務はありません
意外に知られていない点です。祭祀承継者になったからといって、法要を営む義務や、仏壇を永久に保管する義務が法律上生じるわけではありません。
だからこそ、「引き継いだ人が将来どうするか」は家族の信頼に委ねられます。ここを不安に思う方がいるなら、話し合いの時点で「勝手に処分しない」「処分するときは事前に知らせる」といった約束を書面に残しておくほうが、お互いに安心できます。
祭祀承継者を話し合いで決めるときの進め方
法律上の順序は先に述べたとおりですが、実際には「故人の指定はなく、慣習もはっきりしない」というご家庭がほとんどです。そこで家族の話し合いになります。
この話し合いには、遺産分割と決定的に違う点があります。誰かが手を挙げないと決まらない、ということです。財産は分ければ済みますが、祭祀は引き受ける人が要ります。
「誰が継ぐか」から始めない
いきなりこの問いを出すと、全員が黙ります。押し付け合いに見えるのが嫌で、誰も口を開けなくなるためです。
順番を変えてください。
STEP 1 故人の意向が残っていないか確認する。遺言のほか、エンディングノート、生前の会話のメモ。「仏壇は次男に」と言っていた記憶があるなら、それが第1順位です。
STEP 2 物理的な条件を先に並べる。誰の住居に仏壇を置けるか。菩提寺までの距離は。マンションなら管理規約の制約は。条件が出ると、候補が自然に絞られます。
STEP 3 「継ぐ=現物を運ぶ」ではないと共有する。小型の仏壇に作り替える、位牌のみ引き継ぐ、永代供養に切り替える。負担の見え方が変わると、引き受けられる人が出てきます。
STEP 4 費用の分担を先に決める。承継者が一人でも、費用を一人が持つと決まっているわけではありません。ここを先に決めると手が挙がりやすくなります。
STEP 5 そのうえで承継者を確認する。ここまで来れば、たいてい自然に決まっています。
STEP4を最後に回すと、話が戻ります。「継ぐのはいいけど、費用も全部こっちなのか」と。順番を逆にするだけで、同じ家族でも結論が変わることがあります。
話し合いの結果を書面にする理由
口頭で決めただけだと、数年後の法要の席で蒸し返されます。書面にしておく実務上の理由は3つです。
- 菩提寺や霊園へ示せる。名義変更や手続きの際、誰が承継者かを説明する資料になります
- 次の代へ引き継げる。承継者が亡くなったとき、経緯を知る人がいなくなります
- 引き受けた人を守る。「勝手に決めた」と言われないための記録です
特に3つ目です。書面は責任を追及するためのものではなく、動いた人を守るためのものだと捉えてください。
どうしても決まらない場合
慣習も明らかでなく、話し合いでも決まらないときは、家庭裁判所に祭祀承継者を定めてもらう手続きがあります(民法897条2項)。
ただし、その前に一度立ち止まってください。決まらない原因が「負担が重すぎる」なのか「感情的なこだわり」なのかで、打つ手が違います。
| 決まらない原因 | 先に試すこと |
|---|---|
| 置く場所がない | 小型の仏壇や手元供養への切り替え。位牌のみの承継 |
| 費用が不安 | 分担の取り決め。年忌法要の費用まで含めて先に決める |
| 複数人が継ぎたい | 仏壇は長女、墓は長男というように、対象ごとに分けて決める |
| すでに関係がこじれている | 中立の第三者の同席。争いが生じている場合は弁護士の取扱業務です |
上3つは、裁判所に持ち込む前に家族で解決できる種類のものです。実際、負担の形を変えただけで決まったご家庭は少なくありません。
決まったことを残す合意書の文例
口頭で決めただけだと、数年後に「そんな話は聞いていない」が起こります。紛争のためではなく、引き受けた人を守るための書面だとお考えください。
[ ]を埋め、不要な条項は削除してお使いください。
祭祀財産の承継に関する合意書
被相続人[氏名]([年月日]死亡)の祭祀財産の承継について、下記のとおり合意しました。
1 承継者
被相続人の祭祀を主宰すべき者を[氏名]と定めます。
2 対象となる祭祀財産
仏壇一式、位牌[ ]柱、仏具一式、過去帳、[ ]墓地の使用権および墓石。
※対象を特定できるよう、写真番号や所在を併記してください。
3 移動と保管
仏壇および位牌は、令和 年 月 日までに[移転先]へ移すものとします。閉眼供養・開眼供養を行う場合は、承継者が菩提寺と調整します。
4 費用の負担
移動費用、閉眼供養等に要する費用は[ ]が負担します。今後の年忌法要の費用については[別途協議する/承継者が負担する]ものとします。
5 将来の処分
承継者が将来、仏壇の買い替え、処分または墓じまいを検討する場合は、あらかじめ他の相続人へその旨を知らせるものとします。
6 本合意の範囲
本合意は祭祀財産の承継についてのみ定めるものであり、遺産分割、相続分、その他の財産に関する権利義務に影響を及ぼしません。
作成日 令和 年 月 日
住 所
氏 名 ㊞
(相続人の人数分を作成し、各自1通を保管)
第6項が要です。この一文がないと、「仏壇を引き受けた分、相続では譲ったはずだ」といった主張が後から出てきます。祭祀の話と財産の話を切り離しておいてください。
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よくあるご質問
誰も引き受け手がいない場合はどうなりますか
話し合いで決まらず、慣習も明らかでない場合は、家庭裁判所に承継者を定めてもらう手続きがあります。ただしその前に、「現物を運ぶ」以外の方法がないか検討してみてください。小型の仏壇に作り替える、位牌のみを引き継ぐ、菩提寺に永代供養を相談するなど、負担の大きさが変われば引き受けられる方が出てくることもあります。
承継者は仏壇を処分してもよいのですか
祭祀財産の所有権は承継者に移るため、法律上は処分も可能と解されています。ただし家族感情の問題は別です。だからこそ、合意書の第5項のように「処分を検討するときは事前に知らせる」と決めておく意味があります。
仏壇の価値は相続財産に含まれますか
祭祀財産は遺産分割の対象外なので、通常は相続分の計算に含めません。相続税についても、墓所・霊びょう・祭具などは非課税財産として扱われます。ただし骨董的価値のあるものや、投資目的とみられるものは扱いが異なる場合があるため、高額な品がある場合は税理士へご確認ください。
複数の兄弟で分けて持つことはできますか
祭祀財産の承継者は一人と定めるのが原則です。ただし実務上、仏壇は長女、墓は長男、というように対象ごとに分けて決めるご家庭もあります。その場合も、何を誰が承継したのかを書面で特定しておいてください。
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実家の話し合いに、中立の一人を。
誰が引き継ぐのか。費用はどうするのか。決めるのはご家族です。論点を整え、決まったことを書面にし、必要な専門家におつなぎするのが私たちの役割です。
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AUTHOR
深沢 文敏
家族資産コンシェルジュ|行政書士(登録番号 第14130403号)・宅地建物取引士
クロフネ行政書士事務所 代表/さいたま市大宮区
一部上場企業を退職後、行政書士として独立。法務書類の作成権限を持つ行政書士と、不動産売買を媒介できる宅地建物取引士の両資格を保有。郡山市(開成・鶴見坦エリア)に居住し、マンションを所有していた経験から、地方都市の不動産が抱える課題を現場感覚で把握している。日本経済新聞・朝日新聞・NewsPicks・TBS NEWS DIGほか50媒体超に掲載。
→ 実家承継ワンストップサービスの詳細を見る作成:クロフネ行政書士事務所/情報確認日:2026年9月15日。本記事は一般的な情報提供であり、個別の事案に対する法的助言ではありません。当事務所は行政書士事務所です。不動産の名義変更(相続登記)は司法書士、相続税の申告は税理士、相続人間で争いが生じている事案および家庭裁判所での代理は弁護士の取扱業務となります。必要に応じて各専門家をご紹介いたします。
根拠と参考資料
- e-Gov法令検索 民法:897条(祭祀に関する権利の承継)、898条(共同相続の効力)、939条(相続放棄の効力)
- e-Gov法令検索 相続税法:12条(相続税の非課税財産)

