親が認知症になると銀行口座が凍結される理由と対策

親が認知症になると銀行口座が凍結される理由と対策

AUTHOR
深沢 文敏
家族資産コンシェルジュ|行政書士(登録番号 第14130403号)・宅地建物取引士
クロフネ行政書士事務所 代表/さいたま市大宮区
一部上場企業を退職後、行政書士として独立。法務書類の作成権限を持つ行政書士と、不動産売買を媒介できる宅地建物取引士の両資格を保有。郡山市(開成・鶴見坦エリア)に5年間居住し、東日本大震災を現地で経験。マンションを所有していた経験から、地方都市の不動産が抱える課題や災害への備えを現場感覚で把握している。日本経済新聞・朝日新聞・NewsPicks・TBS NEWS DIGほか50媒体超に掲載。
→ 実家承継ワンストップサービスの詳細を見る「親が認知症と診断されたら、翌日には銀行口座が使えなくなる」——そう思っている方は少なくありません。しかし、これは正確ではありません。医師からの診断書が出ても、その情報が銀行へ自動的に伝わる仕組みはありません。口座が凍結される本当のタイミングは、銀行側が本人の判断能力の低下を把握した時点です。
EXPERIENCE|この記事を書いた理由
口座凍結のご相談を受ける中で、「もう少し早く来ていれば家族信託が組めたのに」と感じるケースが後を絶ちません。行政書士として法務を担い、宅建士として不動産売却もサポートしている立場から言うと、凍結リスクは「現金口座」だけの話ではありません。実家の売買契約も、判断能力の低下で無効になりうる——この事実を知っているかどうかで、できる対策がまったく変わります。
この記事では、口座凍結が起きる仕組みと、凍結後に何ができなくなるか、そして事前対策として何をすべきかを解説します。
THE MECHANISM
口座凍結は「法律上の強制」ではない
まず前提として、認知症による口座凍結は法律で義務付けられた手続きではありません。金融機関が「本人の意思確認ができない」と判断したとき、預金規定に基づいて取引を停止する「事実上の凍結」です。民法第3条の2(意思能力のない者が行った法律行為は無効)の考え方を踏まえ、金融機関が本人保護の観点から運用しているものです。
つまり、病院で認知症と診断されても、その情報が直ちに銀行へ通知されるわけではありません。凍結のきっかけになりやすいのは、次のような場面です。
- 本人が窓口で手続きした際に、言動から判断能力の低下が察知された
- 家族が「親が認知症なので代わりに手続きしたい」と申し出た
- キャッシュカードが劣化・紛失し、再発行の際に本人確認ができなかった
- 家族が定期預金を解約しようとして窓口へ本人を連れて行き、認知症であることが判明した
「バレなければ大丈夫」という考えは危険です。ATMでのキャッシュカード利用は一時的に可能であっても、高額な引き出しや定期預金の解約には本人の意思確認が求められ、いずれ限界が訪れます。また、家族が本人の意思に基づかない引き出しを続けることは、後の相続トラブルや法的問題につながりかねません。
WHAT STOPS
凍結されると、何ができなくなるのか
口座が凍結されると、以下の手続きが一切できなくなります。
⚠ 見落とされがちな盲点:不動産の売買契約も無効になる
口座凍結の話題は「現金が引き出せない」ことに注目が集まりがちですが、実家の不動産売買契約も、判断能力の低下した本人が当事者の場合、民法上の意思能力欠缺により無効とされるリスクがあります。これは不動産会社に相談しても解決できません。法務と不動産の両方の視点から対策を立てることが必要な理由がここにあります。
SOLUTIONS
事前対策の3つの選択肢
📋 ① 家族信託
親(委託者)が判断能力のあるうちに、資産の管理・処分を信頼できる家族(受託者)に託す契約です。信託契約を結んでおくと、親が認知症になった後も受託者が信託財産の管理を続けられます。口座が凍結されても、信託口口座の資金は受託者が引き出せる状態を維持できます。また、不動産についても信託財産に組み込んでおくことで、認知症発症後も売却が可能になります。
家族信託の最大のメリットは、家庭裁判所の関与なく、家族の判断で柔軟に財産管理を行えることです。一方で、契約設計の複雑さから、専門家のサポートなしに自分で作成した信託契約書を金融機関が受け付けないケースも増えています。
📋 ② 任意後見契約
親が元気なうちに、将来の後見人を自分で指定しておく制度です。判断能力が低下した後、家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てることで効力が生じます。身上監護(施設入居の契約など)にも対応できる点が家族信託との大きな違いです。ただし、家庭裁判所が関与するため、報酬が継続的に発生し、財産管理の自由度は家族信託より低くなります。
📋 ③ 代理人カード・財産管理委任契約
銀行が発行する代理人カードや、財産管理を家族に委任する契約は、判断能力が低下した後の日常的な金融取引のサポートとして有効です。ただし、口座凍結後は代理人カードも使えなくなること、また不動産の売買などには対応できないことを理解しておく必要があります。
COMPARE
3つの対策の違い:一覧で比較
TIMING
「75歳がゴールデンタイム」と言われる理由
家族信託も任意後見契約も、親の判断能力が十分なうちにしか契約できません。認知症の診断を受けた後では、原則としてこれらの制度を利用することができず、残される選択肢は法定後見(成年後見制度)のみになります。
内閣府の「高齢社会白書」によると、65歳以上の認知症有病率は年齢とともに急上昇し、75歳を超えると特に顕著に増加します。さらに、認知症と診断されるまでの数年間、MCIと呼ばれる軽度認知障害の段階が存在し、この段階でも法律行為の有効性が問われるケースがあります。「元気に見えるから大丈夫」という判断が、実は既にリスクを抱えている可能性があります。
当事務所では、実家健康診断の8項目の一つとして「認知症・家族信託」の準備状況を確認しています。現状を客観的に把握してから動くことで、限られた時間を有効に使えます。
CASE
想定シチュエーション:対策の有無で明暗が分かれた例
※ プライバシー保護のため、典型的なご相談パターンを再構成した想定事例です。特定の個人を表すものではありません。
都内在住・50代のご家族。仙台市の実家を売却しようと不動産会社に相談したところ、父親の認知症が進行していることが判明。不動産会社から「意思能力に問題がある場合、売買契約を結べません」と言われ、売却がストップ。成年後見の申し立てに着手したものの、家庭裁判所の審判まで6ヶ月かかり、その間も空き家の維持費と固定資産税が発生し続けました。
同じく仙台市の実家を持つ別のご家族。父親が75歳のうちに家族信託を組成し、長男を受託者に設定。その2年後に父親が認知症の診断を受けましたが、信託契約に基づき長男が不動産の売却手続きを進められました。成年後見の申し立ては不要で、後見人報酬もゼロ。売却益はそのまま父親の介護費用に充当されました。
FAQ
よくある質問
認知症の診断書が出たら、すぐに口座は凍結されますか?
診断書が出ても、その情報が自動的に銀行へ通知されるわけではありません。凍結は、銀行側が本人の判断能力の低下を把握した時点で起きます。ただし、凍結のリスクがある状態であることに変わりはなく、早めの対策が重要です。
家族が暗証番号を知っていれば、ATMで引き出し続けられますか?
技術上は可能な場合がありますが、本人の意思に基づかない引き出しは法的に問題が生じる可能性があります。後日、他の相続人とのトラブルの原因にもなりえます。また、ATMカードの劣化・紛失時の再発行は本人確認が必要なため、いずれ限界が訪れます。
家族信託の信託口口座は、どこの金融機関でも作れますか?
すべての金融機関が対応しているわけではありません。また、信託契約書が公正証書で作成されていること、専門家が関与していることを条件とする金融機関が増えています。郡山・宇都宮・仙台エリアでは東邦銀行・足利銀行・七十七銀行などが対応していますが、個別に確認が必要です。
すでに認知症と診断された後でも、できることはありますか?
判断能力が低下した後では、家族信託・任意後見の新規締結はできません。法定後見制度(成年後見・保佐・補助)の利用が中心となります。申し立てから審判まで数ヶ月かかること、後見人報酬が継続的に発生することを踏まえ、早めに専門家に相談することをおすすめします。
SUMMARY
まとめ
✅ 口座凍結は法的強制ではなく、銀行が判断能力の低下を把握した時点で起きる「事実上の凍結」
✅ 凍結されると預金の引き出しだけでなく、不動産の売買契約も無効になりうる
✅ 事前対策は家族信託・任意後見・財産管理委任契約の3つが主な選択肢
✅ 家族信託は裁判所の関与なく不動産売却まで対応できる柔軟な制度
✅ 対策は「親が元気なうち」にしかできない。75歳前後が対策の目安
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家族信託の仕組みとワンストップ体制については、実家承継ワンストップサービスの詳細もあわせてご覧ください。
監修:行政書士・宅地建物取引士 深沢文敏(登録番号 第14130403号)
※ 家族信託の契約行為自体は司法書士・弁護士が行います。当事務所は家族信託の設計・契約書案の作成・公証役場との調整・不動産売却を担当し、必要に応じて提携司法書士と連携します。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的判断を保証するものではありません。
※ 認知症有病率に関するデータは内閣府「高齢社会白書」に基づきます。

